「有機溶剤の掲示って、何をどこに貼ればいいのか」「最近様式が変わったと聞いたが、うちの掲示は古くないか」——労働基準監督署の臨検で指摘されやすいポイントのひとつが、この掲示・表示義務です。
この記事では、有機溶剤中毒予防規則(有機則)で義務付けられている掲示物を一覧で整理し、「掲示は廃止された?」という疑問への回答、近年の改正ポイント、正規の入手先、実務チェックリストをまとめます(2026年7月時点の情報です)。
この記事でわかること
- 有機溶剤の掲示義務は廃止されていません。廃止されたのは「内容」の一部だけです
- 義務は「注意事項等の掲示」「色分け表示」「保管場所の管理」の3点セットです
- 掲示物・様式は厚生労働省や中央労働災害防止協会(中災防)の資料を基に用意します
- 有機則非該当の洗浄剤に切り替えれば、掲示義務そのものが不要になります
有機溶剤の掲示は廃止されましたか?——変わったのは「内容」です
有機溶剤の掲示義務は、廃止されていません。「有機溶剤の掲示は廃止された」という情報を見かけることがありますが、これは誤解です。混同のもとは、2023年以降の化学物質規制の見直しで掲示の「内容」と「方法」が改正されたことです。
改正のポイントは次の3点です。
- 掲示内容の更新: 「人体に及ぼす作用」等の記載内容が最新の知見に合わせて見直されました。改正前の古い様式の掲示板を貼り続けている場合は更新が必要です
- 掲示方法の柔軟化: 書面の掲示に代えて、労働者が常時確認できる電子的な方法(イントラネット等)も認められるようになりました
- 対象の拡大: 特定化学物質側では、掲示義務の対象がすべての特化物質に拡大されています(令和5年10月〜)
つまり「掲示という制度」自体は残っていて、「掲示すべき内容」が更新されただけです。旧様式のまま貼りっぱなしになっている現場は、廃止ではなく更新の対象と考えてください。有機則そのものの位置づけ・第1〜3種の分類は有機溶剤中毒予防規則(有機則)とは?で整理しています。
有機溶剤の掲示義務——3点セットで覚える
有機溶剤の掲示義務は、大きく「注意事項等の掲示」「色分け表示」「保管場所の管理」の3種類の「見える化」義務に分かれます。有機溶剤業務を屋内作業場等で行う場合、事業者はこの3点すべてに対応する必要があります。
① 注意事項等の掲示(有機則第24条)
作業中の労働者が見やすい場所に、次の事項を掲示します。
- 有機溶剤の人体に及ぼす作用(どんな健康影響があるか)
- 有機溶剤等の取扱い上の注意事項
- 有機溶剤による中毒が発生したときの応急処置
いわゆる「有機溶剤等使用の注意事項」の掲示板です。労働用品店・通販(ミドリ安全、モノタロウ等)で既製品が販売されていますが、古い様式のまま貼りっぱなしになっている現場が非常に多いのが実情です。
② 区分の色分け表示(有機則第25条)
使用する有機溶剤の区分を、作業場所に色分け+文字で表示します。
| 区分 | 色 |
|---|---|
| 第1種有機溶剤等 | 赤 |
| 第2種有機溶剤等 | 黄 |
| 第3種有機溶剤等 | 青 |
印刷インキの洗浄で使う溶剤の多くは第2種=黄色表示です。
③ 保管・貯蔵場所の管理
有機溶剤を貯蔵する場所には、関係者以外の立ち入りを防ぐ設備と、蒸気を屋外に排出する設備が必要です。「有機溶剤保管場所」の標識を掲げて区画するのが一般的な運用です。
このほか、有機溶剤作業主任者の氏名と職務の掲示、作業環境測定の結果等の周知も必要です。労安法側の関連改正(化学物質管理者の選任等)とあわせて確認したい場合は、労働安全衛生法の化学物質規制改正まとめも参照してください。
掲示物はどこで手に入りますか?——正規の窓口を使う
掲示物・様式は、厚生労働省や中央労働災害防止協会(中災防)といった公的機関が公開している情報を基に自作するか、改正対応済みの市販品を購入して用意します。自作・購入いずれの場合も、内容が最新の様式に合っているかを必ず確認してください。
| 入手先 | 特徴 |
|---|---|
| 厚生労働省 職場のあんぜんサイト(anzeninfo.mhlw.go.jp) | 有機則の条文・関連通達を掲載。掲示すべき事項の根拠を確認する一次資料 |
| 中央労働災害防止協会(中災防、jisha.or.jp) | 有機溶剤等使用の注意事項ポスター・標識類を販売。購入時は改正対応版か確認する |
| 労働用品店・通販(ミドリ安全、モノタロウ等) | 既製の掲示板・ステッカーを購入できる。「改正対応」表記の有無を必ず確認する |
最新の掲示様式・条文の詳細は、上記の厚生労働省・中災防の資料、または所轄の労働局へ確認するのが確実です。
掲示チェックリスト
有機溶剤の掲示を点検する際は、次の項目を1つずつ確認します。
| チェック項目 | 確認内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 注意事項等の掲示 | 人体への作用・取扱い上の注意・応急処置が改正後の内容になっているか | 有機則第24条 |
| 色分け表示 | 第1種=赤、第2種=黄、第3種=青の表示が作業場所にあるか | 有機則第25条 |
| 作業主任者の掲示 | 氏名・職務が掲示されているか | 有機則(選任・職務の周知に関する規定) |
| 保管場所の管理 | 標識・立入防止・排気の措置があるか | 有機則(保管・貯蔵に関する規定) |
| SDSの周知 | 労働者がいつでも確認できる状態か(備え付け・イントラ等) | 安衛法(SDS交付・周知に関する規定) |
| 掲示の状態 | 色あせ・破損せず判読できるか | — |
読めない掲示は「無い」のと同じ扱いを受けます。半年に1回程度、色あせ・破損の有無を目視で確認する運用をおすすめします。
そもそも掲示が要らない現場にする、という選択肢
ここまでの義務はすべて「有機則対象の溶剤を使い続ける限り」発生します。逆にいえば、有機則非該当の洗浄剤に切り替えれば、この掲示・表示義務は一括で不要になります(作業主任者・作業環境測定・特殊健診も同様です)。
当社は印刷業界向けに、有機則非該当の植物性洗浄液への切り替えを提案しています。掲示物の更新に追われるより、掲示自体が要らない現場にする方が、担当者の負担も作業者のリスクも根本から減らせます。
- 有機則の全体像 → 有機溶剤中毒予防規則(有機則)とは?
- 労安法側の改正整理 → 労働安全衛生法の化学物質規制改正まとめ
- 代替の進め方 → 有機溶剤の代替はどう進める?
よくある質問
有機溶剤の掲示は廃止されましたか?
廃止されていません。2023年以降の改正で変わったのは掲示の「内容」と「方法」で、掲示という義務自体は現在も残っています。改正前の古い様式のままの掲示板は、更新が必要です。
有機溶剤に関して何を掲示すればいいですか?
「有機溶剤の人体に及ぼす作用」「取扱い上の注意事項」「中毒が発生したときの応急処置」の3点です(有機則第24条)。あわせて区分の色分け表示、保管場所の標識、作業主任者の氏名・職務の掲示も必要です。
有機溶剤の掲示はどこに貼ればいいですか?
「作業中の労働者が容易に知ることができるよう、見やすい場所」です。実務上は有機溶剤業務を行う作業場所の入口付近や、作業位置から見える壁面に掲示するのが一般的です。
既製品の掲示板を使えば大丈夫ですか?
改正対応済みの製品であれば問題ありません。改正前の在庫品や、貼りっぱなしの旧様式は指摘の対象になり得ます。購入時に改正対応版かどうかを確認してください。
電子掲示だけでもよいですか?
労働者が常時確認できる状態であれば電子的方法も認められます。ただし現場のPC環境によっては、紙掲示のほうが確実に周知できます。
まとめ
- 有機溶剤の掲示義務は廃止されていません。「注意事項等の掲示」「色分け表示」「保管場所の管理」の3点セットが今も必要です
- 2023年以降の改正で変わったのは掲示の内容・方法。旧様式のままの現場は更新が必要です
- 掲示物は厚生労働省・中災防の資料を基に自作するか、改正対応済みの市販品を購入して用意します
- 有機則非該当の洗浄剤へ切り替えれば、掲示を含む管理義務は一括で不要になります